ジル520はバンテックが製作する、カムロードをベース車にした、全長5mを超えるキャブコンキャンピングカー。
同社はフィアット デュカトをベース車にするフラグシップV670から、カムロードをベース車にするジル シリーズ、コルドシリーズを中心にラインアップする、老舗のキャブコンビルダー。
日産キャラバン標準ボディをベース車にしたキャブコン「アストラーレCC1」や軽バンコン「ルネッタ」もラインアップしている。
ジルシリーズにはリアエントランスの「ジル」、後部にダブルベッドを持つ「ジル ノーブル」、そしてこの「ジル520」がラインアップされる。
(記事中の価格は全て税込です。また装備や仕様に関してはビルダーでカスタマイズ可能な場合もありますので、各ビルダーにお問い合わせください。)
概要
カムロードをベース車にする5m超のフルサイズキャブコンで、後部に横置き2段ベッドを持ち、キャブコンのレイアウトとしては最も一般的なレイアウトを採用している。
ジルシリーズの特徴でもある豪華なインテリアはジル520にも採用されており、間接光を多用した照明や洗練されたサニタリールームのデザインは特筆される。
またギャレーには常設2口コンロや清水と生活水それぞれ専用のフォーセットが用意されている。エアコンはもちろん標準装備されており、更に床暖房も標準装備されているのはジル520のみのアドバンテージだ。
アピールポイント
・衝撃を吸収するFRP一体型シェルを採用した「CSボディ」
・5m超の広い室内
・効率の良い後部横置き2段ベッドのレイアウト
・間接光を多用したムーディな室内
・ホテルを思わせる豪華なサニタリールーム
・家庭用セパレートエアコン標準装備
・床暖房システム
・2口常設コンロを配したギャレー
・清水と生活水を分けたフォーセット
ベース車とエクステリア

ジル520のエクステリア
ベース車はトヨタ カムロード ワイドトレッドダブルタイヤ。新型カムロードは全車ダブルタイヤになる。これにFRP一体成型のシェルを架装している。同社のシェルは「CSボディ」と名付けられており、万一の衝突時に衝撃を吸収するとしている。
前部にバンクを持つがスムースに流れる曲線は、バンクの存在をことさらに主張していない。バンクベッドの高さを犠牲にすることなく、かつスマートなシルエットを持つ美しいデザインだ。
インテリア

重厚なイメージのインテリア
ジルシリーズに共通する木目を生かした重厚なイメージのインテリアで、落ち着いた車内を作り出している。また間接光を多用した照明は夜の室内をムーディなものにする。
シート生地の選択肢については、同社の別モデルのものに変更は可能なようだ。家具色の変更については記載が無いが、このインテリアは照明の色温度や位置なども含めたトータルコーディネートの結果なので、家具色の変更はバランスを崩すことになるのかもしれない。
レイアウト
前部に対座ダイネット、中央にギャレーとサニタリールーム、後部に横置き2段ベッドの構成。これはキャブコンで最も一般的に使用されるレイアウトで、各種レイアウトをラインアップするビルダーでも必ず用意しているレイアウトだ。
このレイアウトが定番の理由は、2段ベッドが前方に浸食しないため、ダイネットやサニタリールームを広く取れることによる。実際ジル520の室内は、後部に横置きダブルベッドを持つジル
ノーブルより広く感じる。
横置き2段ベッドはこのような特徴の他にも、就寝前にプライベートな時間を過ごせたり、夜中にトイレに立つ場合でもパートナーを起こすことが無いという利点もある。一方、上段ベッドに上る必要があるため、年配のユーザーは気を付ける必要がある。
ダイネット

4~5名が対座できるダイネット
前部には4~5名が対座できるダイネットがある。多くのキャブコンと同様、2列目、3列目のシートはどちらも固定式でリクライニングはできない。
テーブルは大きく、ファミリーで食事しても狭いということは無い。また、アクリル2重窓は広くとられており、明るいダイネットに貢献している。
ベッド

間接光の読書灯が備えられた2段ベッド
後部の横置き2段ベッドのサイズは、上段が1910x755mm、下段が1910x800mmの大きさ。身長方向は十分なので長身のユーザーでも足が窮屈ということは無いだろう。ベッド幅は車長が5m超ということもあり、十分な広さだ。
両段とも間接光の読書灯が備えられており、ベッドの片隅までインテリアに対するこだわりが感じられる。

大人が3名就寝できるバンクベッド
バンクベッドは1860x1830mmの大きさ。家庭用ではキングサイズの幅(1800mm)以上に相当する。ここでは3名が就寝できる。
なお、ダイネットを展開してベッドにすることは想定されていない。従って、就寝人数は計5名となる。
ギャレー

シンクと一体の常設2口コンロ
ギャレーに関しては貧弱なモデルが多い国産のキャブコンでも、5m超のキャブコンになれば常設コンロを持つモデルは多くなる。その中でもジルシリーズのギャレーは見栄えが良い。
常設2口コンロがシンクと一体になっておりコンロの間隔も広いので、大き目の鍋とやかんを並べて加熱することができる。

ギャレーキャビネットの3段の引き出し収納
ギャレーキャビネットには3段の引き出し収納があり、カトラリーや食器、あるいは調理用具を収納しておくことができる。なお、給水タンクは生活用水タンクが48L、排水タンクが70Lでそれぞれ床下に設置されている。
また、先述のように、20Lの清水タンクが別に用意されており、これは後部のベッド下収納に設置されている。
冷蔵庫/電子レンジ

85L横開き式冷蔵庫が標準装備される
冷蔵庫は85L横開き式が標準装備されており、ギャレーキャビネットに収納されている。もちろん冷凍室が設けられており、冷蔵と製氷・冷凍が同時にできる。
なお、電子レンジはオプションとなっており、この展示車には装備されていなかった。電子レンジはクルマ旅をするユーザーには必需品に近く、ましてやハイエンドのキャブコンなので、どこにどのように設置されるのかを知るためにも標準装備が望まれる。
多目的ルーム

「ホテルのような」サニタリールーム
ジルシリーズのサニタリールームは「ホテルのような」と形容されることがあるが、ジル520のサニタリールームも凝った造りになっている。カセットトイレと専用の手洗いが標準装備されており、手洗いの蛇口もデザインを意識したものだ。
サニタリールームには温水シャワーも標準装備されている。湯は22Lの熱交換、あるいは電気ヒーターで加熱して作るが、60℃程度に沸いた湯と水を混合し、適温にして使う。
ただし外気温にもよるが、1回に使える湯量は2名でも足りないだろう。ファミリーで使うなら、何度か湯を沸かす必要があり、その都度待つことになる。ダイレクトカーズの「トリップ」シリーズやアネックスの「リバティ52DBや52SP」のような瞬間湯沸かしシステムが望まれる。
なお、FFヒーターの吹き出し口が用意されており、冬場でもシャワーやトイレ時に寒い思いをすることは無い。また、サニタリールーム内に専用のオーバーヘッド収納が設置されているのも嬉しい。
収納

ダイネット両側にオーバーヘッド収納が設置される
ジル520の収納はフルサイズのキャブコンだけあって、充実している。まず、オーバーヘッド収納はダイネットの両側、ギャレー上、エントランス上にあり、それぞれが大きな容量を持つ。
また、ギャレーの引き出し収納やサニタリールーム内のオーバーヘッド収納については前述の通り。

エントランス横のシューズボックス
エントランス横には引き出し式のシューズボックスが用意されている。フルサイズのキャブコンにしては少し小さい感じがしないでもない。もう少しキャビネットの高さがあっても良かったかもしれない。

ベッド下の大きな外部収納(手前は清水タンク)
ベッド下には大きな外部収納がある。エアコンの室外機があるので、右サイドからのアクセスはできないが、左側と後部から外部収納にアクセスできる。ただ、コルドバンクスでは室外機は収納の下側に格納されており、3面からのアクセスが可能だ。
また、同じレイアウトを持つ5m未満のコルドバンクスでは、リアベッドボードを外して自転車等の大きな荷物が積めるよう、縦長の大きな外部収納ドアが採用されている。しかしジル520にはこの機能が無いのは残念なところだ。
空調

家庭用セパレートエアコンが標準装備される
家庭用セパレートエアコンが標準装備される。室内機はダイネット上に設置されているが、オーバーヘッド収納と同色のカバーで隠されている。これもデザイン面のこだわりだろう。

室外機は車体右側後部に設置される
室外機は車体右側後部に設置される。スリットで外部と繋がっているため、エアコン使用時に車外に出て室外機の扉を開けたりする必要はない。
テレビ/ナビ
持ち込んだ19型テレビの取り付けがオプションとして記載されている。設置場所は前部左側のキャビネットの上部に、テレビ用アームが用意されている。ナビは特にオプションで用意されていないようだが、好みのものを取り付けることは可能だろう。
電装系
100Ahのディープサイクルバッテリーが3個(= 300Ah)標準装備される。また、走行充電、外部100V電源入力と充電機能、1500W正弦波インバーターが標準装備される。ソーラーシステム(フレキシブル480W/240Wまたは259W)はオプションで装備できる。
残念ながら、リチウムイオンバッテリーはオプションで用意されていない。エアコンは計300Ahのディープサイクルバッテリーで駆動する場合、日中なら(エアコンの消費電力を500Wとすると)、4~5時間運転できるだろう。
また、夜間はエアコンの消費電力が下がるので、バッテリーが満充電されていれば一晩中運転することができるかもしれない。ソーラーシステムを併用すると、更に長い時間運転することができる。
ただし、ディープサイクルバッテリーは年々能力が落ちていくので、3年目には十分な冷房機能が期待できない可能性がある。やはりリチウムイオンバッテリーの搭載を期待したい。
価格(2021年4月現在:千円台切り上げ:税込)
ディーゼルのダブルタイヤのみ選択可能で、2WDは1068万円~、4WDが1086万円~となっている。
付けておきたい必需オプションは、クルマ旅をするなら(ほとんどのユーザーがそうだと思うが)電子レンジ(49,500円)が挙げられる。
予算に余裕があれば、ソーラーシステムは搭載しておくと、日中にサブバッテリーが充電できる。
他モデル
5m超のカムロードキャブコンでこのレイアウトを持つ主なモデルは、アネックスのリバティ52DB(1078万円~)、ダイレクトカーズのトリップⅡ(1235万円~)、東和モータース販売のヴォーンエクスクルーシブR2B(1100万円~)、ナッツRVのクレア/スティング5.3W(1052万円~:エボリューション)が挙げられる。
これらすべてにエアコンが標準装備されるが、このうち、リバティ52DB、トリップⅡ、ヴォーンエクスクルーシブR2Bにはリチウムイオンバッテリーが標準装備される。クレア/スティング5.3Wはハイパーエボリューションバージョン(1140万円~)に標準装備される。
なお、「5m超のカムロードキャブコン特集2022」の記事も参照いただきたい。
まとめ
ジル520はインテリアの豪華さと、キャブコンの老舗のバンテックブランドで人気があるモデルだ。実際、長年の実績に基づいた使い勝手の良さや洗練されたインテリアデザインはトップクラスのキャブコンと言える。
しかし競合モデルの進化も著しく、多くの他モデルはリチウムイオンバッテリーを既に搭載している。もちろんジル520がリチウムイオンバッテリーを搭載しないメリットは価格面で出ており、内容に対して比較的安価な価格は大きな魅力でもある。
しかし、ジル520の豪華なインテリアや使い勝手の良さを気に入ったユーザーが、電装系も充実したものにしたい場合の選択肢が無いのは残念なところだ。リチウムイオンバッテリーや瞬間湯沸かしの選択肢はやはり期待したい。
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