「ジル」はバンテックが製作する、トヨタ カムロードをベース車にする5m超のキャブコンキャンピングカー。
同社は言わずと知れたキャブコンのトップビルダーのひとつだが、ジルシリーズは5m超の車長を持つハイエンドモデルのシリーズ。その上にはV650というフィアットデュカトをベース車にしたモデルが存在するが、ジルシリーズは5m未満のコルドシリーズとともに、同社の事実上のメインストリームモデルだ。
ジルシリーズには、この「ジル」の他、センターエントランスで後部に横置き2段ベッドを持つ「ジル520」と、同じくセンターエントランスで横置きダブルベッドを持つ「ジルノーブル」がある。
(記事中の価格は全て税込です。また装備や仕様に関してはビルダーでカスタマイズ可能な場合もありますので、各ビルダーにお問い合わせください。)
コンセプト
カムロードをベース車にする5m超のキャブコンで、リアエントランスのレイアウトを採用。前部には広いダイネットを配置する。
間接照明を効果的に使った豪華な室内は同社のインテリアの特徴で、特に温水シャワーや専用手洗いが標準装備のサニタリールームは ホテルのそれのような豪華さ。更に二口常設コンロを持つギャレーも実用性を併せ持ち本格的な料理もできる。
FFヒーターはもちろん家庭用エアコンを標準装備し、四季を通じて快適なクルマ旅を約束してくれる。
アピールポイント
・リアエントランスで広いダイネット
・高級感のあるインテリア
・間接照明を用いた雰囲気のある室内
・常設2口コンロのあるギャレー
・温水シャワー標準装備
・家庭用エアコン標準装備
エクステリア

ジルのエクステリア
ベース車はトヨタ カムロード ワイドトレッドダブルタイヤ。新型カムロードは全車ダブルタイヤになる。これにFRP一体型シェルを架装している。
同社のシェルは「CSボディ」と名付けられており、万一の衝突時の衝撃から乗員を守る同社独自の設計がされている。
インテリア

ブルーのアクセントカラーのインテリア
ジルシリーズのインテリアは高級感のあるものだが、それを際立たせているのが間接照明を多用した雰囲気づくりにある。照明はルーフ近くだけでなく、家具の隙間やギャレーの天板の下などにも埋め込まれており、夜の高級感を演出する。
家具色やシート色は他モデルのものも選択できるようだが、展示車のインテリアは、奇抜ではないが美しく飽きの来ないもので、特に不満はないだろう。
レイアウト
リアエントランスを採用しているため、定石通り前部に広いダイネットを配置している。後部には多目的ルームと、クローゼット、そして最後部にはギャレーを配置する。
対座ダイネットがあるが、車幅が広いため通路が前後に通り、車内の移動は全くストレスなく行える。
ベッドはバンクベッドとダイネットを展開する2か所があり、ジル520やジルノーブルのような常設ベッドを持たない。従って就寝時にはベッド展開を行う必要があるが、バンクベッドは引き出すだけでセットできるので、準常設ベッドともいえる。
乗車は運転席、助手席とその間の補助席で3名、ダイネットに4名で計7名が乗車できる。フロントシートの補助席は通常使わないので、4名が前向き乗車で3点式シートベルトを使える。
また就寝はバンクベッドで2名、ダイネットベッドで3名で計5名が就寝できる。
ダイネット

リアエントランスで広いダイネット
前部を全てダイネットに割いており、広い空間となっている。もちろん大勢でテーブルを囲むことができるが、二人旅でも広いダイネットはストレスが溜まらない。
また、両側には大きなアクリル2重窓があり、明るく開放的なダイネットに貢献している。テーブルも大きく、数人での食事でも食器を並べることができる。
ベッド

ダイネットベッドでは3名が就寝できる
先述の通り、ジルのベッドはダイネット展開ベッドとバンクベッドの2か所で常設ベッドは無い。ただし、バンクベッドは引き出すだけでセットできるし、寝具もそのまま置いておけるので、就寝前に重労働することは無い。
ダイネット展開ベッドの大きさの数値データは無いが、幅は1800mm以上あり3名が就寝できる。これは家庭用ではキングサイズの幅に相当する。

3名が就寝できるダイネットベッド
またバンクベッドの大きさは1880x1860mmで、ここでは大人が2名就寝できる。こちらも家庭用のキングサイズに相当する。
ギャレー

最後部に配置されるギャレーセクション
ギャレーはリアエントランスの定石通り最後部に配置されている。

常設二口コンロと生活水/清水別のフォーセット
このスペースは奥行きを取り難いため、リアエントランスでは簡易的なギャレーになってしまうモデルが多いが、ジルではそのような妥協は無く、常設2口コンロが装備されている。
更に、ジルシリーズでは清水タンクと生活水タンクを分けており、清水はシンク下に19Lのタンクが収納されている。また生活水は床下に55Lのタンクがあり、これはシャワー用に温水にすることができる。
排水タンクは70Lで、これも床下に設置されている。

向かい側にカウンターテーブルがある
ただしスペースの制約はあり、ギャレーキャビネットには調理スペースはほとんどない。そのため、エントランスを挟んで向かい側(前方)にカウンターテーブルが設けられている。
これは上からアクセスできる収納になっているが、大きなごみ箱としても使えるようだ。
冷蔵庫/電子レンジ

85L横開き式冷蔵庫が標準装備される
冷蔵庫は85L横開き式が標準装備されている。もちろん冷蔵と冷凍が同時にでき、製氷もできる。冷蔵庫はサニタリールームの隣の収納タワーにビルトインされているが、腰をかがめなくても中のものが取り出せるよう少し高い位置に設置されているのが特徴。
なお、電子レンジはオプションとなっており、この展示車には設置されていなかった。設置される場所も不明だが、電子レンジはこのクラスのモデルにはほぼ必需品なので、標準装備が望ましいのではないだろうか。
1500Wインバーターは標準装備されているので、電子レンジを設置する場合は、外部電源が無い場所でも電子レンジをサブバッテリーで使うことができる。
サニタリールーム

「ホテルのような」サニタリールーム
キャンピングカーのインテリアに高級感がある場合、「ホテルのような」と形容されることがあるが、ジルシリーズのサニタリールームはまさにそれに値する。電動水洗式カセットトイレと凝ったデザインのフォーセットの専用手洗いがあるほか、温水シャワーが標準装備される。
室内はもちろん防水になっており、排水口も用意されている。また、小型のベンチレーターとFFヒーターの吹き出し口も用意されており、寒い季節でも温かいトイレ/シャワールームになっている。
ただし、温水はエンジンの熱を利用する熱交換と電気ヒーターを使用するが、温水タンクは22Lとされている。この温水と水とを混ぜて適温にするが、二人でぎりぎりの湯量と思われる。
収納

ダイネット両側にオーバーヘッド収納が設置される
ジルの収納は充実している。まず、オーバーヘッド収納は両側に設置されており、それぞれの容量も大きく、大きな収納力がある。

ギャレーの引き出し収納
またギャレーキャビネットには3段の引き出しがあり、カトラリーや鍋など調理用具を収納しておける。

長いコートなども収納できるクローゼット
冷蔵庫の隣にはクローゼットも設けられている。縦に長いので、長いコートなども収納しておける。

FRP製の外部収納
外部収納はジルノーブルやジル520のように後部に大きなベッドが無いため、ベッド下収納が設置できない。そのため、車体横に大きなFRP製収納が用意されており、汚れ物や濡れたものを入れることができる。
空調

家庭用エアコンが標準装備される
暖房はFFヒーターが標準装備され、冷房は家庭用エアコンが標準装備される。室内機はダイネット上にオーバーヘッド収納と同じ扉が付けられており、デザイン的に配慮されている。
室外機はボディ右側後部に置かれており、スリットで排気できるようになっている。見た目も自然でデザイン的にも美しく収まっている。
同社は「デュアルソースエアコンシステム」という機能をアピールしている。これは走行中はエンジン(オルタネーター)の発電でエアコンを動かし、停車中はサブバッテリーで稼働するというもの。
停車時のエアコンの連続運転時間は、「昼間は約4時間、夜間は約10時間(弊社実測テスト時・冷蔵庫併用でテスト)」としている。
テレビ/ナビ

32型のテレビが標準装備される
テレビ台がダイネット前部右側に用意されている。テレビ自体はオプション設定されておらず、持込の液晶テレビを取付けできる(OP)。画面サイズは19型が指定されている。
電装系
100Ahのディープサイクルバッテリーが3個標準装備される。バッテリーの増設はオプション設定されていないが、容量的には十分だろう。なおリチウムイオンバッテリーのオプションはない。
外部100V電源入力と、これによるサブバッテリーの充電機能は標準装備される。また、インバーターは1500Wのものが標準装備される。
ソーラーシステムはフレキシブルタイプが480Wと240W、一般的なものは259Wがオプション設定されている。
なお、同社は発電機の搭載にも対応しており、オプションでi box(343,200円)を装備できる。これはホンダEU-18iが収納できるケースで、防音効果がある。デュアルソースエアコンシステムと矛盾するようだが、現実的には発電機があるとかなり安心感が高い。
価格(2021年4月現在:千円台切り上げ:税込)
ディーゼルのダブルタイヤのみが選択可能で、2WDは1059万円~、4WDが1077万円~となっている。
付けておきたいオプションは、フレキシブルソーラーシステム480W(660,000円)等のソーラーシステムが挙げられる。またクルマ旅に使うなら、電子レンジ(459,500円)も装備しておきたい。
他モデル
5m超のカムロードキャブコンは多数存在するが、リアエントランスを持つモデルは他にセキソーボディのプログレス(価格不明)があるのみ。実は極めて珍しいレイアウトなのだ。
まとめ
ジルはシリーズの中では先駆的なモデルだが、今はジル480やジルノーブルのほうが一般的なレイアウトになっている。他社モデルもこれらのレイアウトが一般的だ。
しかし、リアエントランスレイアウトは広いダイネットが特徴で、大勢での使用にも対応できるが、むしろ二人旅にお勧めしたいレイアウトだ。
キャンピングカーは限られた空間を最大限に活用するため、効率的なレイアウトが求められるが、ジルのダイネットは二人では無駄と思えるほど広い。しかし、この広さが二人旅を余裕のあるものにする。
限られた空間の車内で長時間過ごすには、ある程度の無駄な空間が重要になってくる。リアエントランスの弱点は、後部のベッドが無いためベッド下の大きな外部収納が無いことだが、キャンプやアクティビティをしない二人旅なら、不要な空間だ。
その代わり室内には大きなオーバーヘッド収納やクローゼット、充実したギャレーなどクルマ旅には欠かせない機能がすべて搭載されている。
非常に完成度の高いモデルなので不満は少ないと思われるが、あえて弱点を挙げておくと、リチウムイオンバッテリーの非対応がある。ライバル車がほとんどリチウムイオンバッテリーに対応した現在、やはり早い対応が期待される。
もう一つは湯沸かし機能。一度に使える湯量に制限があり、少なくとも2名が十分使える湯量が望まれる。理想的にはダイレクトカーズのトリップシリーズやアネックスのリバティシリーズで採用されている瞬間湯沸かし機能が望まれる。
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