V670はバンテックが製作する、フィアットデュカトをベースにしたキャブ・コンバージョンキャンピングカー。デュカトは欧州モーターホームのベース車として広く使われているが、国産車でデュカトをベース車にするモデルは今までになかった。V670はデュカトを採用した初の国産モデルだ。
デュカトをベース車に使うメリットは、荷室部の広さと、シェルを架装する場合の柔軟性にある。FFのため後部のシャシーの長さを比較的自由に決められる他、ドライブシャフトが不要なため、低床化が可能で室内高も高く取れるのだ。また前述のように欧州ではモーターホームとしての実績が大きく、その信頼性は高い。
ただし、デュカトにも弱点はある。最も大きな弱点は4WDが無い、という事実だ。FFのためキャブ部だけで駆動系が成立してしまうのは、後部の柔軟性がある反面、4WDにできないというデメリットもある。
もう一つのデメリットは、メンテナンスの問題だ。トヨタなら日本全国にサービス網が張り巡らされているが、フィアットはそうはいかない。加えてデュカトはキャンピングカーの完成車としては輸入されているが、FCAジャパンが正規輸入しているわけではない。更にメンテナンスコストが高額になりがちでもある。
このようなデメリットがあるものの、デュカトはやはり魅力的なキャンピングカーのベース車ではある。トラック臭くないルックスやキャンピングカーとしての動力性能など魅力は大きいい。V670はデュカトをベース車にした初めての国産キャブコンで、2017年のジャパンキャンピングカーショーでそのプロトタイプが展示された。今回発表されたファイナルモデルでは、エクステリアとインテリアに関しては前回のプロトタイプをほぼそのまま踏襲している。
ベース車はフィアットデュカト2.3 180 Multijet 2 Powerで、デスレフやアドリアブランドのモーターホームと同じ仕様のエンジンを搭載する。ちなみにセカンドブランドのサンライトやサンリビングのモデルでは130PSや150PSの下位グレードのエンジンが採用されている。(オプションでアップグレード可能の場合あり)V670のシャシーはバンテック仕様のAL-KOシャシーを採用している。
エクステリアはデュカトの洗練されたフォルムを生かした流麗なスタイルで、今までの国産車ではできなかったデザインだ。もちろん右ハンドル左エントランスで、使い勝手も良く安全性にも優れている。シェルは
FRP で形成された同社独自のCSボディ(Comfort&Safety Body)。バンクレスで、アドリアのMatrixやCorelに似た、フロントトップに少し膨らみをもたせたシルエットを持つ。全長は6700mmで、7mを超えることが多い輸入モデルに比べ国内では扱いやすいサイズと言える。全幅は一般的な輸入モーターホームが2300mm前後であるのに対し、2250mmと若干狭くなっている。これも国内の道路では有利だろう。
落ち着いた木目の家具。
インテリアは木目を生かした落ち着いたもので高級感もある。オフホワイトの本革張りソファーも含め洗練された空間だ。なお、欧州車には通常装備されているフロントの大きなサンルーフがV670には装備されていないのは多少残念なところ。
レイアウトはフロントにダイネット、リアにベッドルームの構成で、中央にギャレーとサニタリールームを配置している。オーソドックスなレイアウトではあるが、その分使いやすい。リアは大きなダブルベッドで2名が就寝できる。メインベッドはこれだけなのでふたり旅仕様と考えて良いだろう。
前部は革張りソファのダイネット
ダイネットは前向き横座りソファでL字型にテーブルを囲む。デュカトの定番通り、運転席と助手席のシートを反転させることができ、これをダイネットの後ろ向きのシートとして対座させることができる。判で押したように同じで、少し座面が高すぎる欧州車のダイネットと比べると、V670のダイネットは実に新鮮だ。また、ソファの形状も含めV670のダイネットの方がゆったり落ち着ける感じがする。フロントシートも含めると計6名がテーブルを囲むことができるが、二人旅ならソファだけで十分だろう。またダイネットを展開してエマージェンシーベッドとして使えるが、やはり本来の使い方はリアのメインベッドだけでゆったりした二人旅が適している。
なお、窓下にあるサイドカウンターから32インチの液晶テレビがせり上がってくるのは斬新なアイデアだ。
大きなサンルーフを持つベッドルーム
ベッドは後部のハイマウントダブルベッドがメインベッドで、バンクベッドやプルダウンベッドは無い。ベッドは日本ベッド製を採用しており、寝心地も十分期待できるものだ。更に、ベッドルームのルーフには大きなサンルーフが取り付けられており、星空を見ながら就寝できる。
1口コンロが一体となったシンクをビルトインしたギャレー
ギャレーはエントランスを入って右側に 配置される。残念ながらV670で最もがっかりさせられるのが、このギャレーだ。ここには一口コンロを一体化したシンクがビルトインされている。このクラスのキャブコンには相応しくない貧弱なギャレーだ。輸入モデルの場合、最もコンパクトなキャブコンでも少なくとも二口コンロがビルトインされている。日本のキャンピングカーユーザーはあまり調理をしないということを考慮しても、やはりこのクラスにはきちっとしたギャレーがあるべきだろう。調理をするユーザーにとってみればなおさらだ。ギャレーが不要なユーザーにはマイナスオプションにするといったことができれば良いのだが。
冷蔵庫は150リットルの大型冷蔵庫が与えられており、ふたり旅なら十分な大きさだ。また電子レンジも標準装備されており簡単な調理には非常に便利。ただし電子レンジの位置はベッドの下で腰をかがめなければ使うことができない。
サニタリールームにはカセットトイレと温水シャワーが標準装備される
サニタリールームはカセットトイレと温水シャワーが標準装備される。また独立した手洗いも装備されている。22Lの温水タンクの湯を56Lの給水タンクの水と混合して適温にする。湯は熱交換式あるいは電気ヒーターで沸かす。温水タンクの水は何度まで加熱されるのか不明だが、十分に高温でないと総量で使える湯量はあまり多くない。またシャワー使用時はシャワーカーテンで便器をカバーすることができるようだ。
収納はダイネット上部、ベッドルーム上部、ギャレー上部にオーバーヘッド収納が用意されている。ただ、デザインが優先されているのか、底辺の奥行きがもう少し欲しい。また、手で支えていないと扉が閉まってしまうのも使いにくい。ギャレーコンソールには引き出し収納が用意されており、箸やスプーンの収納に便利だ。
ベッドルーム上部のオーバーヘッド収納
外部収納は両サイド下に木幡のものが用意されており、汚れものなどを入れておくことができる。
また、ベッド下が大きな外部収納スペースになっており、自転車なども余裕で積むことができる。この収納の特徴はドアで、観光バスのようにスライドして上に開くようになっている。これなら狭い場所でも開けることができる。日本で開発されただけあって、素晴らしいいアイデアだ。
スライド方式を採用した外部収納ドア
空調は、エバス社製の FFヒーターのほか、国産モデルらしく家庭用エアコンが標準装備される。なおエアコンの室外機は床下に寝かして配置されている。やはり床下への取り付けは色々な面で不安がある。スペースの厳しいバンコンならともかく、キャブコンなのでもう少し適切な場所が無かったものだろうか。また、メインベンチレーターのほか、サニタリールームにも専用のベンチレーターが装備されている。
電装系は300Ahのサブバッテリー、走行充電、外部入力充電が標準装備される。また1500Wのインバーターも標準装備され、エアコンや電子レンジもバッテリーで駆動できる。リチウムイオンバッテリーはオプションリストにないが、少なくとも200Ahのリチウムイオンバッテリーを搭載しておくとエアコンが更に実用的に使用できるだろう。
価格は1400万円(税別)。同社のジル520が740万円(同)なので、国産キャブコンとしてはかなり高価な部類に入る。輸入モデルなら、例えばデスレフのPULSE T6811EBが1140万円(同)だ。ただし、輸入モデルの場合は、家庭用エアコンは別途取り付けが必要だったり、サブバッテリーが95Ahしか標準装備していないので価格的には同じくらいになる。
デュカトをベース車に使用した初めての国産キャブコンとして、どうしても輸入モデルとの比較になってしまうが、V670に圧倒的な優位性は残念ながら少ない。インテリアもかなり洗練されてはいるが、ギャレーやサニタリールームはやはり輸入モデルに及んでいない。一方サンリビングやサンライトなどのセカンドブランドの輸入モデルなら800万円台(同)から入手できる。
V670を選ぶ理由があるとすれば、それは右ハンドル左エントランスと、家庭用エアコン、カセットガス対応など、日本のインフラに対応した設計だろう。最近では輸入車でも家庭用エアコンの装着はほとんどのモデルで可能だが、最初から考慮されているのはデザイン面や信頼性で優位だ。また輸入車で左エントランスのモデルはACE
CaravansのACE565(記事はこちら)やSwiftのEscape Compact 404(記事はこちら)など一部にはあるが非常に少ない。
今後他のビルダーも含め、デュカトベースのコンパクトなモデルの登場を期待したい。