新規参入勢が食い込むハイエンドキャブコン市場
5mを超えるキャブコン市場では、従来よりメインプレーヤーはナッツRVのクレア/スティングと、バンテックのジルシリーズがツートップだ。しかし、2019年に導入されたアネックスのリバティ52DB、2020年に導入されたリバティ52SPとダイレクトカーズのトリップなど、このマーケットに食い込む意欲作モデルが検討している。
そこで今回は、新規参入勢とツートップのモデルを中心に、5m超のフルサイズキャブコンを徹底比較する。ただし今回はカムロードベースとした。カムロード以外のモデルの比較はいずれ行いたい。
なお、5m以下のキャブコンについては「5m以下の最新キャブコン9選」をご覧いただきたい。
目 次
クレア/スティング シリーズ ナッツRV
ナッツRVはセミフルコンから軽キャンパーまで手掛ける総合ビルダー。クレアとスティングは同社ラインアップの中核を占めるカムロードキャブコンのうち、クレソンジャーニーの上位モデルにあたる。
クレアとスティングの違いは、キャブ上部のバンクの形状の違い。クレアは盛り上がったバンクがあるのに対し、スティングは自然な立ち上がりの曲線を描いている。スティングはバンクレスのように見えるが、クレアより低いバンクベッドを装備している。
クレア、スティングともレイアウトは同じで、TypeZ、TypeW、TypeXの3種類から選択できる。各レイアウトの構成は以下の通り。
TypeZ:「可動式」対座ダイネットとダブルベッドの組み合わせ
TypeW:対座ダイネットと2段ベッドの組み合わせ
TypeX:対座ダイネットと「変形」ダブルベッドの組み合わせ
TypeZとTypeXは、同じようなレイアウト構成だが、TypeZが1400mm幅のダブルベッドを持つ代わりに可動式の2列目シートで、TypeZほど大きななシートではないのに対し、TypeXはしっかりした2列目シートとダイネットを持つが、ダブルベッドの足元が10cm狭くなっている。
即ち、全長の制約から来るしわ寄せをどこにするかの違いだ。
その意味では、TypeWの後部ベッドは2段ベッドで、前方に侵食しないので効率がよい。ただし、上段に上る必要があるので年配のユーザーに好まれないのと、ベッド下に広い収納スペースが取れないという弱点がある。
なお、ユーティリティールームは全てのタイプに与えられている。

クレア5.3X Evolutionの室内
Evolution仕様とノーマル仕様が選択でき、Evolution仕様には家庭用エアコンが標準装備される。またEvolution仕様ではディープサイクルバッテリーが3個標準装備されるので、実用的なエアコンの使用が可能だ。
なお、温水シャワーはオプションで装備できる。この場合は、温水キット(ラジエーターボイラー)+シャワーキット+60L排水タンクの設置で消費税を入れると35万円程度の追加費用が必要となる。
インテリアカラーが4種類から選択できるのもメリットだ。
⇨ クレア5.3TypeX Evolutionの詳しい記事はこちら
ジルシリーズ バンテック
バンテックはカムロードベースのキャブコンを専門にする大手キャブコンビルダー。上位モデルのジルシリーズと普及モデルのコルドシリーズを中心に、キャブコンでは高い人気を誇っている。最近ではフラグシップのV670も加わった。
5m超のジルシリーズには3モデルある。
ジル:リアエントランス 対座と横座りシートの広いダイネット
ジル520:中央エントランス 対座ダイネット+後部2段ベッド
ジルノーブル:中央エントランス 対座ダイネット+後部ダブルベッド
「ジル」は同社のモデル中では唯一のリアエントランスモデル。このレイアウトの特徴は、前部に広大なダイネットを取れること。一方弱点は常設ベッドが無いことと、後部ベッド下に外部収納を取れないこと。しかし、大人数のファミリーや広いダイネットで寛ぎたい二人旅ユーザーに支持されている。

ジルノーブルの室内
バンテックのキャブコンの特長は高い安全性を考慮したFRP一体型CSボディとソリッドスクエアフレーム、清水と生活用水が別になった本格的なギャレー、温水シャワーやカセットトイレ、独立した手洗いが標準装備のお洒落なサニタリールームなどだ。もちろん家庭用エアコンは標準装備。
また電装系は3個のディープサイクルバッテリーを標準装備し、デュアルソースエアコンシステムによりオルタネーターの発電だけでエアコンを長時間運転できる。
⇨ ジルノーブルの詳しい記事はこちら
リバティ52DB/52SP アネックス
アネックスはキャブコンからコンパクトバンコンまで手掛ける総合ビルダー。リバティは従来ハイエースをベース車にしたキャブコンがメインだったが、2019年のジャパンキャンピングカーショーでカムロードベースのリバティ52DBを発表。そのスタイリッシュなフォルムはカムロードキャブコンのイメージを大きく変えた。
リバティ52シリーズには現在2020年に発表された52SPを加え、2モデルから選択できる。
リバティ52DB:対座ダイネット+後部2段ベッド
リバティ52SP:対座ダイネット+後部ダブルベッド
リバティ52シリーズの特長は、スマートな外観ながら広いバンクベッドを持ち、インテリアはナチュラルなイメージと間接照明でお洒落感を満載していること。バンクベッドには大きなサンルーフもあり、星を見ながら就寝できる。

リバティ52SPの室内
機能面では床暖房や家庭用エアコンを標準装備し、カセットトイレと瞬間湯沸かし対応の温水シャワー、そして専用手洗いが標準装備されたサニタリールームなど、欧州車と同等以上の内容を持つ。
更に電装系は標準で240Ahのリチウムイオンバッテリーを搭載。リチウムイオンバッテリーに対応し強化された電源システムで急速充電も可能だ。
これだけの内容と装備が付いて、価格は他車とそれほど差があるわけではなく、さすがに最新の設計だけあって、もはや死角はほとんど見当たらない。
あえて言うなら、トイレやシャワーは使わないので不要なものが付いてしまっている、と言った意見があるかもしれないが、これだけ使いやすいシャワーならむしろ積極的に使えば良いのではないだろうか。
まさに国産モーターホームと呼べるキャブコンだ。
⇨ リバティ52DBの詳しい記事はこちら
⇨ リバティ52SPの詳しい記事はこちら
トリップ ダイレクトカーズ
ダイレクトカーズはハイエースバンコンで有名なビルダーで、数多くのハイエースレイアウトを製作しているが、2019年にハイエースベースのキャブコン「モビリティホーム」を発表、そして2020年にはカムロードベースのキャブコン「トリップ」を発表した。
トリップは前部に対座ダイネット、後部に縦置きダブルベッドとサニタリールームのユニークなレイアウト構成。中央にギャレーを配置する。このレイアウトのメリットは広々感。サニタリールームを最後部にすることにより、中央が狭くなるのを回避し、見通しが良くなっている。
縦置きダブルベッドもサニタリールームの位置関係から決まっている。ベッドはハイマウントではないので上りやすく、年配のユーザーにも優しいレイアウトだ。ベッド下の外部収納は、確かに後部ハイマウントベッドのレイアウトほど大きく取れないが、特別大きなものを積まないなら十分な大きさだ。
トリップのもう一つの特徴は、バンクベッドに埋め込まれた32型の大型テレビ。いよいよキャンピングカー内でも大きなスクリーンでプログラムを楽しめる時代になった。トリップはキャンピングカーにエンタテインメントという新しい価値基準を持ち込んだエポックメーキングなモデルと言える。

トリップの室内
車内の快適性はエンタテインメントだけではなく、サニタリールームにもあてはまり、カセットトイレや温水シャワー、専用の手洗いが標準装備される。また温水シャワーは瞬間湯沸かし機能を持ち、湯が沸くのを待つことなく、135Lの給水タンクにより、数人のファミリーでも湯量が足りなくなることはない。
装備面ではFFヒーターが標準装備されるだけでなく、12Vで動作するセパレートエアコン「CoolStar」が標準装備される。車載専用に設計されており、小型低消費電力で、かつ家庭用エアコンと同等の冷房能力を持つ。
ギャレーにはIHコンロがビルトインされており、車内での火気を無くして安全性を高めている。なお、電装系は当初2本のディープサイクルバッテリーが標準装備されていたが、現在はリチウムイオンバッテリーが標準装備されている。
⇨ トリップの詳しい記事はこちら
レガードネオプラス L.T.キャンパーズ
レガードはヨコハマモーターセールスが製作するモデルだが、L.T.キャンパーズが家庭用エアコンなどを標準装備し、レガードネオプラスとして販売している。
レガードネオプラスの特長は、走りと安定性だ。シャシーを205mm長くすることにより直進安定性が良くなり、またセミモノコックフロアでバッテリーや水タンクなどの重量物を床下に配置することにより徹底的な低重心化を図っている。これは国産キャブコンでは他に類を見ない。
外観は一般的なキャブコンの形ではなく、フロントからリアまでスムースなラインでつながっており、「バンク」は存在しない。内部を見ると、バンクベッドは無いが、その代わりプルダウンベッドが用意されている。

レガード ネオ プラスの室内
6名が無理なく寛ぎ、就寝できることが設計思想になっており、ダイネットは4名対座シートが中心だが横座りシートもあり、6名がゆったり座れるように工夫されている。
サニタリールームは温水シャワーが標準装備される。また専用の手洗いも装備されているが、ポータブルトイレの選択肢も残し、カセットトイレはオプションとなっている。なお、ギャレーはコンロがビルトインされておらず、カセットコンロを使うたびにセットする必要がある。
ただし装備の自由度は高いので、自分に合った装備をオーダーすることもできるだろう。
⇨ レガードネオプラスの詳しい記事はこちら
以下のウィズ525とプログレスについては、映像素材が無いため、写真のみで紹介する。
ウィズ525 タコス

タコスはカムロードベースのウィズシリーズの他、ハイエースベースのキャブコン「ベリー」からハイエースバンコン、ライトエースベースのライトキャブコンまで、手掛けている。
ウィズシリーズは同社のフラグシップモデルにあたり、5m以下の「ウィズ」と5m超の「ウィズ525」を選択することができる。
ウィズ525の特長は価格が安価な割に装備が充実していること。家庭用エアコンが標準装備され、温水シャワーは選択できないが、カセットトイレや専用手洗いも標準装備される。ギャレーには2口コンロが一体になったシンクがビルトインされる。

ウィズ525の室内(タコスのWebサイトより)
レイアウトは前部にダイネット、後部に縦置きダブルベッドとサニタリールームを配置する。ダイネットは前向き着座シートもあるが、構成はソファシートのダイネットで、エントランス側のシートと対座できるようになっている。
ベッドは後部の縦置きダブルベッドが常設ベッドだが、幅が1060mmしかなく2名で就寝するのは多少窮屈かもしれない。従ってもう一人はバンクベッドか、ダイネットを展開してベッドにする必要がある。
シェル後部に大きな縦型の扉があり、ベッドボードを外すと自転車が積み込める。自転車を積み込んでの二人旅にも適している。
価格はディーゼル 2WD/4AT シングルタイヤで654万円(税別)家庭用エアコンが標準装備されるが、FFヒーターやサブバッテリーの増設が必要なので数十万円の追加出費が必要。
しかし元が安価なので、手頃な価格でフルサイズキャブコンを手に入れたい場合は狙い目だ。
プログレス セキソーボディ

セキソーボディはハイエースベースのキャブコン「トムバロン」や「トムタンデム」が有名で、「トム23」などのライトキャブコンも手掛けている。プログレスは同社唯一のカムロードキャブコンで、リアエントランスが特徴。
外観はバンクが目立たないスマートなボディで、全長は5200mmだが、車幅は1920mmでキャブ部からシェルがはみ出していない。このため、後部の見通しが良く運転し易い。
レイアウトは、リアエントランスの定石通り、前部に広いダイネットが広がる。しかしこのレイアウトがユニークなのは、最後部に常設2段ベッドを配置すること。通常リアエントランスの場合は常設ベッドを持たず、バンクベッドがメインベッドになる。
ただしその分ギャレーはコンパクトになっており、コンロもビルトインされていないが、ユーティリティールームは確保されている。

プログレスの室内
ユーティリティールームでは、温水シャワーは選択できないが、カセットトイレはオプションで設置できる。
バンクベッドも装備されており、2名が就寝できるが、スマートなバンクなので、バンクベッド部の高さは高くない。そのため、就寝時に多少圧迫感があるかもしれない。
装備は65L冷蔵庫、電子レンジが標準装備されるが1500Wインバーターはオプション。またFFヒーターは標準装備される。冷房では家庭用エアコンがオプションで用意されている。
サブバッテリーが100Ah1個なので、家庭用エアコンを実用的な時間動作させるためにはサブバッテリーの増設が必要になる。
価格はディーゼル 2WD/4AT シングルタイヤで648万円~。ただし家庭用エアコンは発電機の排気処理と合わせて20万円(同)。またサブバッテリーの増設(価格不明)、1500Wインバーター(138,000円:同)も必要だ。
まとめ
まず価格的に見て、ジルシリーズは相対的に安価なのが分かる。2口コンロや清水と生活水が分かれた蛇口を持つギャレーや、カセットトイレ、温水シャワー、専用手洗いが標準装備のサニタリールームなど、安価ながら全体的な室内の豪華さはトップクラスだ。潜在的な人気があるのが理解できる。
クレア/スティングシリーズも、室内の洗練度においては引けを取らない。アルミパネルとFRPパネルを組み合わせた最新のシェルなど技術的な面では常に最先端を行く。スマートなバンクのスティングをラインアップしているのも強みだ。
しかし、カセットトイレと温水シャワーがオプションであったり、シャワールーム専用手洗いが無かったりを考えると、豪華さとお買い得感は一歩引けを取る。
新規参入のリバティ52シリーズとトリップを見ると、まず価格がクレア/スティングやジルシリーズより高価なことに気が付く。しかし両モデルともカセットトイレ、瞬間湯沸かし温水シャワー、専用手洗いを標準装備するサニタリールームは、最新鋭のモデルだけに次のステージに入っているようだ。
また、どちらのモデルともリチウムイオンバッテリーが標準装備というのも新世代モデルに相応しいし、ソーラーシステムももはや標準装備となっている。更にリバティは床暖房、トリップはIHや32型大型テレビ、そしてどちらもサンルーフが標準装備されるのも新しい。リバティとトリップは多少高価ではあるが、それだけの意味があると言える。
まとめると、コストパフォーマンスならジルシリーズ、先進性ならリバティとトリップ、エクステリアとインテリアの選択肢の豊富さではクレア/スティングシリーズ、そして走りならレガードネオプラスといったところだろうか。