Astrare(アストラーレ)CC1は、ファーストカスタムが製作しバンテックが販売する、NV350キャラバン標準ボディをベース車にしたキャブコンキャンピングカー。
ファーストカスタムと言えば、かつてハイエースをベース車にした豪華キャブコン「CG550 ボレロV-MAX」などで名を馳せた有名なビルダーだった。しかし2014年に姿を消し、その名が再び注目を集めることは無かった。
しかし2021年、美しいキャブコンを伴って、再びファーストカスタムの名が話題になった。「Astrare(アストラーレ)CC1」と名付けられたそのキャンピングカーは、バンテックから発売されることになった。
ちなみに、「Astrare」とは、イタリア語の「ASTRA(星)」と「MARE(海)」からの造語で、「CC1」はCivilized(文明的な)Cab
Conversion (キャブコンバージョン)のファーストモデルという意味だそうだ。
(記事中の価格は全て税込です)
コンセプト
車長を5m以下に抑えたコンパクトなキャブコン。NV350キャラバンをベース車に使用しエクステリアデザインも重視した美しい外観を持つ。またクーラーとリチウムイオンバッテリー、ソーラーシステム、冷蔵庫、電子レンジなど充実した標準装備も特徴。
対座ダイネットと横置き2段ベッドを持つ、ファミリーにも二人旅にも対応できるレイアウトを採用している。
エクステリア

アストラーレCC1のエクステリア
美しいキャブコンだ。このデザインはバンテックのV670を思わせるが、デザイナーは別の方とのこと。アストラーレCC1はV670とともに国産キャブコンのデザインの先端を行くものだろう。
ベース車は日産NV350キャラバン標準ボディを使用。おそらくキャラバンベースのキャブコンは他ビルダーも含めてこれが初めてではないだろうか。インテリジェントエマージェンシーブレーキも標準搭載されている。
シェルはFRP製。以前のファーストカスタム製キャブコンで採用されていた剛製スペースフレームも搭載され、安全面に貢献している。
アストラーレの外装のもう一つの特徴は、スライドドアの採用。スライドドアにすることにより、隣のクルマにドアがぶつかる心配が無い。また、リアハッチも上部にまっすぐ上がる方式で、これも後部にスペースが無い場合でも開閉できるように考えられている。さらにオートクロージャーがこのスライドドアとリアハッチに標準装備されており、小型ながらも洗練された機能性を持っている。
インテリア

アストラーレのインテリア
アストラーレのインテリアはエクステリアに相応しいお洒落なものだ。これもV670と同じくオフホワイトのシートと木目の家具色だが、V670が横木目に対し、アストラーレは明るい縦木目になっている。
なお、インテリアカラーが変更、選択できるかは不明だが、展示車のインテリアでもさして不満は無いだろう
レイアウト
前部に対座ダイネット、後部に横置き2段ベッド、中央にギャレーとユーティリティールームを配置するレイアウト。天井高も十分あり圧迫感は少ない。またユーティリティールームと冷蔵庫が収納されたタワーの奥にあるベッドルームは、程よいプライベート感がある。なおバンクベッドは無い。
運転席、助手席から後部までの動線も無理が無く、車内の移動はスムースだ。乗車定員は、運転席、助手席の間に1名着座できるためフロントシートに3名、2列目シートに後ろ向き2名、3列目シートに2名で、計7名となっている。
現実的にはフロントシートに2名と3列目シートに2名が前向き乗車でき、かつ3点式シートベルトが用意されているため、計4名のファミリーに適したレイアウトだ。
また就寝は、後部の横置き2段ベッドで2名とダイネット展開ベッドで1名が就寝でき、計大人3名が就寝できる。もちろん、大人2名+子供2名のファミリーでも就寝可能だ。二人旅なら、ダイネットをそのままにして、眠くなったらすぐに常設の2段ベッドで休むことができる。
ダイネット

4名対座のダイネット
ダイネットは2列目に後ろ向き固定の二人掛けシートと、3列目の前向き二人掛けシートで4名がテーブルを囲んで団欒できる。テーブルも大きく、4名での食事も問題ない。ペットがいる場合や足を伸ばして寛ぎたい場合はダイネットをベッド展開すると広いフラットスペースができる。
ダイネット横には大きなアクリル二重窓があり、一般的なアクリル窓同様、網戸とシェードが組み込まれている。
ベッド

後部には横置き2段ベッドを設置
メインベッドは最後部に置かれた横置き2段ベッド。サイズは不明だが、一般的な広さは確保されている。2段ベッドの良いところは各自が自由な時間に就寝できること。上下段に読書灯が用意されており、パートナーの眠りを妨げることなく就寝前のプライベートな時間を過ごせる。
ただし2段ベッドの欠点は高いところに上らなくてはならない点で、年配者は注意が必要だ。展示車には梯子が無かったが、この辺りもチェックする必要があるだろう。
なお、上段ベッドは跳ね上げることができる。この理由は二つある。一つは2段ベッドスペースをセカンドダイネット(というよりは一人用書斎)として使える点。下段ベッドの中央の板が外れ、机として利用できる。
もう一つの理由は、2段ベッドのスペースを広い荷室として使える点だ、下段ベッドボードを取り去り、上段ベッドを跳ね上げると大きな収納スペースになる。ただし、コルドバンクスのように縦長のサイドドアが無いので、自転車を積むといったことはできないようだ。

ダイネットを展開すると大人1名が就寝できるベッドになる(写真:バンテック)
また、ダイネットを展開するとベッドになる。こちらもサイズは不明だが、大人1名が就寝できる。ベッド展開は簡単で、テーブルを押し下げてシートバックを並べるだけ。就寝前に大きな労力を使わずベッド展開できる。
ギャレー

分別式ごみ箱があるギャレーコンソール
ギャレーコンソールは広い天板を持ち、丸型シンクとシャワーフォーセットがビルトインされている。8ナンバー要件としての調理器具は電子レンジが標準装備されるため、コンロは用意されていない。
このあたりの考え方は、二口常設コンロを持つバンテックのコルドシリーズとは異なるもので、コンロでの調理は重視されておらず割り切っている。
また、ユニークなのは分別窓を持つ大きなごみ箱。コンビニやスーパーで買ってきた惣菜のパッケージをそのまま捨てることができる。今までにない斬新なアイデアではあるが、賛否両論があるかもしれない。

大きな分別式ごみ箱
一般的なユーザーがどのようにごみ捨てしているか分からないが、短期旅の場合はゴミを持ち帰るだろうが、長期旅の場合、多くのユーザーはゴミをできるだけ小さくして、ビニール袋に入れ、口を縛り、多くならないうちにこまめに捨てるのではないだろうか。
アストラーレのごみ箱は1週間程度のゴミを収納しておき、まとめて捨てるという考え方なのかもしれない。しかし、汚れたパッケージを長期間このゴミ箱に入れておくのは気が進まない。
いずれにしても、やはりここは普通の収納スペースにして欲しいという要求があるだろう。収納はオーバーヘッド収納と大きなベッド下収納があるが、手近な大き目の収納や、食器やカトラリーの収納が無いからだ。
また最近は調理をするユーザーは少ないという理由で常設ガスコンロが削除される傾向があるが、湯を沸かしたりトーストを焼いたりと言ったことをすべて電気でやると200Ah程度のリチウムイオンバッテリーでも心もとない。やはり常設ガスコンロのオプションも用意して欲しいところだ。
冷蔵庫/電子レンジ

90L冷蔵庫が標準装備される
冷蔵庫は大きな90L横開き式のものが標準装備される。これだけの容量があれば、ファミリー分の食材を入れておけるし、冷凍室も大きいので、冷凍食品も多く入れておける。
また電子レンジも前述のように標準装備される。
ユーティリティールーム

ポータブルトイレを置いてトイレルームにすることができる。
ユーティリティールームも用意されている。ポータブルトイレを置いてトイレルームとすることも可能だ。なお、ラップポンが置けるかは不明。これからのユーティリティールームはラップポンが置ける対応が求められるだろう。
収納

ダイネット上のオーバーヘッド収納
まずオーバーヘッド収納がダイネットの上とギャレー上に用意される。奥行きも十分にあり収納力は大きい。食器やタオルなど清潔に保ちたいものの収納に便利だ。

後部ベッド下の外部収納
それ以外には後部ベッド下に大きな外部収納があり、車内からもアクセスできる。大きなキャンプ道具も余裕で積めるし、折り畳みの自転車は倒して収納することができるだろう。
空調

クーラーの吹き出し口
暖房はFFヒーターが標準装備される。また冷房はDC12Vで動作するクーラーが標準装備される。クーラーの室内機は隠されており、吹き出し口から冷気が出てくる。インテリアへのこだわりが感じられる部分だ。
クーラーはDC12 Vなので常にバッテリーで駆動される。クーラーの仕様は公表されていないが、真夏の日中なら700W程度の消費電力と想定すると、3時間程度連続運転できるだろう。夜なら2倍程度の時間運転できると思われる。
しかしガスコンロが無いため、電子レンジを頻繁に使い調理すると、当然クーラーの運転時間も短くなる。

ダイネット上にあるベンチレーター
なお、ベンチレーターがダイネット上と後部ベッド上2か所に用意されている。ダイネット上のベンチレーターはファンが付いており強制換気が可能。シェードも付いている。後部のものはファンが無いが、寝ながら夜空が見えるムーンルーフでもある。
テレビ/ナビ
15.6型のフリップダウンモニターが標準装備される。これはフロントシートの後部上に取り付けられており、ダイネットから観ることができる。また、ナビも標準装備される。もちろん標準装備のナビをマイナスオプションにして、好みのナビを付けることもできる。
電装系
サブバッテリーは200Ahのリチウムイオンバッテリーが標準装備される。またCTEK走行充電システム、外部100V入力と充電機能、さらに1500W正弦波インバーター、75W x2(=150W)のソーラーシステムも標準装備、充実した電装系を標準装備している。
なお、外部電源からの充電電流は80Aとなっている。即ちサブバッテリー1個あたり最大40Aで充電する。リチウムイオンバッテリーならではの大電流充電だ。サブバッテリーは1個100Ahなので単純計算では2.5時間で満充電されることになる。(もちろん実際は常に40Aではないので、もう少し時間がかかる。)
価格(2021年4月現在:千円台切り上げ:税込)
ガソリン2WD/5ATで979万円~。高価に見えるが、これにはエアコン、リチウムイオンバッテリー200Ah、FFヒーター、ソーラーシステム、電子レンジ、テレビ、ナビ、オートクロージャーなどが標準装備されている。その総額は70万円以上になる。
これらは他車では通常オプション設定されているので、同条件で考えると900万円程度と考えられる。
標準装備が充実しているので、追加で付けておかなければならないオプションは無いが、必要に応じてサイドオーニングあたりが挙げられる。
他モデル
NV350キャラバンベースのキャブコンは他に無いので、ハイエース標準ボディベースのキャブコンを挙げると、セキソーボディのトム200(648万円~)、タコスのベリー(531万円~:家庭用エアコン標準装備)、ファンルーチェのウラルエイジア(721万円~:FFヒーター、200Wソーラーシステム標準装備)がある。またカムロードベースだが同社のコルドバンクスなら668万円~(エアコン標準装備)だ。
こうして比べると、アストラーレCC1はかなり高価だ。エクステリアの美しさ、インテリアの洗練度、装備の先進性などを考えると、この価格差はある程度納得できるかもしれないが、やはり高価だ。もっとも価格勝負で売る車でないのは確かだが。
まとめ
アストラーレCC1はコンパクトながら高い動力性能で、運転しやすく駐車しやすいキャンピングカーだ。4名が3点式シートベルトで前向き乗車できるので、ファミリーでのロングドライブにも対応できる。
もちろん二人旅ならダイネットはそのままにして常設2段ベッドですぐに就寝することができる。プライベート性の高いベッドなので、ベッドに入ってからの時間も自由に過ごすことができる。
大型冷蔵庫や電子レンジ、エアコンも装備されているので、長期旅にも適している。しかしここまでの条件なら上記の3モデルもある程度満たしている。しかも価格は格段に安価だ。
アストラーレCC1のプレミアム性は、やはりそのエクステリアデザインにある。キャンピングカーといえどもデザインは重要と考えるユーザーには、他にないモデルだ。逆に、機能性優先で外観にはこだわらないユーザーには高価なだけのモデルだろう。
しかしいつまでも眺めていたい外観を持つキャンピングカーはそれほど多くない。エクステリアが美しければ多少のマイナスポイントも気にならないかもしれない。
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