キャンピングカーの世界にも、いよいよEVの波が押し寄せてきた。2月に開催されたジャパンキャンピングカーショー2026ではLACグループが、7月の東京キャンピングカーショー2026ではLACグループに加えてダイレクトカーズ、ホワイトハウス、トイファクトリーの各社が、相次いでKIAのPV5をベースにしたコンセプトモデルを出展し、大きな注目を集めている。
今回は、この話題のベース車であるKIA PV5の詳細と、国内のバンコン市場で圧倒的なシェアを誇るトヨタハイエースとの比較、そしてEVキャンピングカーが抱える運用面やインフラ面の課題、最後に今回各ビルダーから発表されたコンセプトモデルの全貌をレポートする。
目 次
KIA PV5とは?
KIA PV5 Cargo(写真提供:KIA)
KIA(起亜)は1944年に創業された韓国の自動車メーカーで、単独ブランドとして世界第6位、親会社を含むグループ全体(ヒョンデ・キアグループ)としては、トヨタグループ、フォルクスワーゲングループに続き世界第3位のポジションに位置している。
PV5は、2024年1月に米国・ラスベガスで開催された家電・IT見本市「CES 2024」にて、次世代モビリティ「PBV(Platform Beyond
Behicle)」のコンセプトカーとして世界初公開され、2025年2月に、量産モデルを正式発表、2026年春に日本国内での発売を果たしている。
日本国内へは、総合商社の双日が100%出資する「Kia PBVジャパン株式会社」を設立。キャンピングカービルダーでは、LACグループ、ダイレクトカーズ、トイファクトリー、ホワイトハウスの4社が販売店を展開している。
KIA PV5 CargoとPassenger
PV5には現在乗用車ベースのPassengerと商用バンのCargoがラインアップされている。Passengerは3ナンバー、Cargoは1ナンバーだが、キャンピングカー登録の場合は8ナンバーになる。
PV5 Passengerのリアゲート
PV5 Cargoのリアゲート
最も顕著な違いは、Passengerはリアゲートがハイエースと同様に上開きとなるが、Cargoは観音開きとなっている。また、Passengerは後部両側に窓があるが、Cargoは窓が無い。観音開きのリアゲートにも窓が無いので、キャンピングカーにする場合は窓を架装する必要があるかもしれない。
PV5ボディカラー(写真提供:KIA)
ボディカラーは、Passengerが7色、Cargoは3色から選択できる。また、内装色はCargoが1色だけなのに対し、Passengerでは3色から選択できるほか、Passengerでは乗用車に相応しい質感が与えられている。
PV5のバッテリー容量は、71.2KWh、即ち71200Wh。現在のハイエンドキャブコン、例えばアネックスのリバティ52シリーズのサブバッテリーは最大9600Whなので、約7.4倍にもなる。これで528Km走行できるとされている。
EVベースのキャンピングカーのメリット
エアコンや電装システムの架装は不要なため広い室内が可能
EVは様々な要因で一時の勢いを無くしているが、キャンピングカーに関してはEVと相性が良い。その最大の理由はEVの大容量バッテリーだ。EVはベース車が巨大なサブバッテリーを持っているようなもので、別途電装システムを構築する必要が無い。
また、ユーティリティモードにしておけば、停泊中でもエアコンやヒーターが使える。即ち、家庭用エアコンや車載用クーラーを設置する必要が無い。シート下の電装システムや出っ張ったエアコンが無いため、室内を広く使うことができる。
さらに、エアコンを駆動させたままペットを車内に残し食事をするということも可能。 停車中に画面から「ペットモード」を起動し、目標温度を設定して車外に出てロックすると、エアコンが継続して動き続けるとされている。
問題は充電
EVの問題は充電だ。まず、走行充電という概念は無い。従って、どこかで駐車して充電する必要がある。しかし、充電にはに時間がかかる。1日の終わりには必ず自宅や事業所に戻ってきて夜中に充電する自家用車や事業車なら問題ないが、EVキャンピングカーは必ず出先で充電する必要がある。急速充電なら30分で80%充電できるというが、この30分は待たなければならない。
車中泊をしながらEVに充電するイメージ
しかし、もし車中泊中に充電できれば、これほど効率の良いことは無いだろう。即ち、RVパークやオートキャンプ場に充電スタンドがあれば良い。もちろん、従来の100Vコンセントでは出力不足だが、急速充電器までは必要ない。低コストの普通充電器でも朝には満充電されている。
即ち、EVベースのキャンピングカーを普及させるには、一般の充電スタンドを増やすのではなく、RVパークやオートキャンプ場に普通充電器を普及させることに注力すべきだ。本気でEVキャンピングカーを普及させたいなら、業界全体で何らかの具体的な普及策を早急に講じる必要があるだろう。
PV5とハイエースのサイズ比較
PV5がハイエースやキャラバンにとって代われるかどうかはまだ分からない。しかし、日本のメーカーの供給の不安定さは、PV5の導入に追い風を与えることは間違いないだろう。PV5とハイエースのサイズの比較は次の通り。
ハイエース標準ボディ標準ルーフと全長は全く同じ、全幅はハイエースワイドミドルより広く、全高はハイエース標準ボディより低い。即ち、ハイエースワイドミドルルーフよりも、標準ボディ標準ルーフの全幅を広げたようなイメージだ。
荷室の大きさを比べると、ハイエース標準ボディの方がはるかに長い。これはPV5のクラッシャブルゾーンが長く、ハンドルの位置もハイエースより後ろにあることによる。ちなみに、PV5は運転席と荷室の間に仕切りがあり、前後の行き来をウォークスルーにするためにはこれを取り除く必要がある。
一方、PV5の荷室高は、全高が低いにもかかわらずハイエースより高い。これは床を低くすることができるというEVの特徴による。従って居住部は、ハイエースは縦に長く、PV5は横と高さが長いということになる。
レクビィのソランの様なレイアウトは難しい
PV5の短所は荷室の長さだろう。1800mmのベッドを作ると、ベッドの前端から運転席、助手席までの余裕はほとんど無く、上の写真のように1800mmのベッドの前にさらにギャレーキャビネットを設置するというレイアウトは不可能だ。
KIAが新ラインアップを発表
KIA PV5 Highroof
KIAは「2026年釜山モビリティショー」でPV5ハイルーフを発表した。これは全長、全幅はPV5と同じ(4,695mm)ものの、全高がPV5の1,899mmに対し2,210mmで、311
mm高くなっている。そのため室内高もPV5が1,520mmに対し、1,830mm 前後で、約310mm高くなる。ハイエーススーパーロング(室内高1,635mm)よりも195mm高い。
ハイルーフになり大人が立っても頭がつかえないのは大きなアドバンテージだが、残念ながら全長はPV5と変わらないので、上記の懸案事項は解決しない。
KIA PV7
もう一つは、「CES 2024」で初めて公開され、2027年に発売予定のPV7。全長 5,270 mm、全幅 2,065 mm、全高2,120mmで、ハイエーススーパーロング(全長
5,380mm、 全幅 1,880mm 、全高 2,285mm)の幅をもう少し広げたイメージだ。
荷室サイズのデータは公表されていないが、ハイエース標準ボディやワイドロングと同等の荷室長を得ようとするとPV7が必要になる。ただし、全長はスーパーロングほどの長さになってしまう。
KIA Cargo Concept:ホワイトハウス
KIA Cargo Concept
ホワイトハウスは電動ポップアップルーフを架装した「KIA Cargo Concept」と「KIA Passenger Concept」を東京キャンピングカーショー2026に出展した。
ダイネットモード
横座りベンチシートと、対面するテーブルのレイアウト。前部にポータブル冷蔵庫を収納するキャビネットが設置されている。ベンチシートのフロントシートの下には電子レンジを設置。ベンチシートの下やテーブルの下は収納スペースになっており、電装システムやエアコンの室内機が不要な分、広々としている。
ベッドモード
ベッドサイズは実測で1810x1340mmということだが、ベース車の全幅が1895mmなので、もう少し広く取れるかもしれない(ハイエースワイドミドルルーフのベッド幅は、一般的に1650mm程度は確保できる)。ルーフベッドでも大人が2名就寝できるので、就寝人数は4名となっている。
ベッド展開は、シートやテーブルを回転させ、最後にベッドマットをはめ込んで完成するという新しい発想のもの。これもシートやテーブルの下が空洞になっているからできるのだろう。EVならではのベッド展開だ。(ベッド展開の動画はこちら)
KIA Passenger Concept:ホワイトハウス
KIA Passenger Concept
こちらはKIA Passengerをベースにしたモデルで、こちらもポップアップルーフを架装している。前述の通り、リアゲートは上開き式だ。
KIA Passenger Concepの後部
2列目に3名掛けの純正シートがあり、後部は広いカーゴスペースになっている。手前の機材は展示用のもので、実際には不要。
DC EV LIFE:ダイレクトカーズ
ダイレクトカーズはDC EV LIFEシリーズとしてPV5 PassengerとPV5 Cargoを出展した。
PV5 Passengerベースのインテリア
PV5 Passengerベースは後部にベンチシートと収納キャビネットを設置。テーブルは前後にスライドさせて任意の位置に固定することができる。ルーフにはスポットライトが埋め込まれている。車両本体価格は869万円~とされていた。この価格には補助金は含まれていない。
IHクッキングヒーターが収納されている
キャビネットにはIHクッキングヒーターやテレビも収納されている。キャビネットにはオープン収納も用意されているが、PV5の車幅が広いため、奥行きが十分確保されていることが分かる。
PV5 Cargoベースはエクステリアのみ。インテリアは開発中としている。
KIA PV5 Passenger Plus:トイファクトリー
トイファクトリーはPV5 Passengerを展示。木目調のデカールはオプション。
専用ベッドキットと専用ラゲッジ家具
ベース車への架装は無く、既に商品化されている「Kia PV5 パッセンジャー専用ベッドキット」を中心に展示。ベッドキットの大きさは、1,850×1,400mmのダブルベッドサイズ。分割式なので、簡単にベッドメイクができる。
ベッドマットの生地は、上質で伝統ある「尾州織」と、なめらかな肌触りの「プレミアムスエード」の2種類から選択可能。尾州織は3種類のカラーが用意されている。その他にも、「専用ラゲッジ家具」や「専用カップテーブル」も用意されている。ベッドキットの価格はファブリックのもので330,000円。
LAC EV Camper C:LACグループ
LAC EV Camper C
LACグループは、ジャパンキャンピングカーショー2026で先陣を切ってPV5のコンセプトモデルを展示したが、東京キャンピングカーショー2026では、これと同じものを出展した。ただし、PV5
PassengerベースのLAC EV Camper Pはボディカラーがブラックのものを展示した。
LAC EV Camper Cのインテリア
LAC EV Camper Cは木目の天板を採用したギャレーキャビネットとベンチシートが向かい合ったレイアウトを採用。ブルーのアクセントライトがお洒落な室内を演出している。このギャレーキャビネットには、ポータブル冷蔵庫と電子レンジが収納されている。
LAC EV Camper P:LACグループ
LAC EV Camper Pのインテリア
PV5 PassengerベースのLAC EV Camper Pは二の字型の横座り対座のレイアウトを採用。前後にスライドするテーブルも用意されている。冷蔵庫や電子レンジの収納は無く、冷蔵庫はポータブル冷蔵庫を持ち込む形になる。
参考価格も発表されており、車両本体価格は879万円~、補助金が120万円(予価)とされており、合計価格は759万円とされている。
まとめ
PV5は魅力的なEVベース車であり、RVパーク等の充電設備が充実すれば購入を検討するユーザーは増えるだろう。しかし、ハイエースと比較すると荷室の長さが圧倒的に不足している。そのため展示車は全て横座りベンチシートであり、レイアウトの自由度が限られる点は否めない。
この仕様では、ハイエースやキャラバンの牙城を崩して代替となるのは一部の用途に留まる可能性が高い。ハイルーフ仕様でも全長は変わらないため、この居住性の問題を根本的に解決するには、より大型なPV7の登場を待つ必要がありそうだ。
一方で、近場での日帰りイベントや1〜2泊程度の小旅行であれば、PV5は十分に実用的なベース車となり得る。特にPV5 Passengerをベースにすれば、5名が前向きに配置されたシートに無理なく乗車でき、居住性と移動時の快適性を両立できる。
さらにポップアップルーフを備えれば4名の就寝が可能となり、ファミリーでの車中泊にも対応する。日常使いから休日の旅行、さらには災害時の避難シェルターとしての機能までを兼ね備えていると考えれば、ファーストカーとして選ぶ価値は十分にある。



